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広島地方裁判所尾道支部 昭和59年(ワ)123号 判決

主文

一  被告は原告に対し金二〇〇二万七八八五円を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を被告の負担としその余を原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。但し、被告において金一〇〇〇万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金二五九三万六九二〇円及びこれに対する昭和五九年四月一八日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は建築工事の請負を業とするものである。

2  原告は被告との間で、昭和五八年一〇月四日、被告の経営するホテル「玲香園」の新築工事(木造スレート葺弐階建、事務所・宿泊所・倉庫、以下本件建物という。)の建築工事請負契約を締結した。その工事請負契約の主要な内容は、次のとおりである。

イ 工事名   ホテル玲香園新築工事

ロ 工事場所  三原市新倉町五二八番地の一外

ハ 工期    自 昭和五八年一〇月四日 至 昭和五九年二月二八日

ニ 請負代金  金九八〇〇万円

ホ 請負代金の支払方法

(1) 契約成立時 一〇〇〇万円

(2) 残金は出来高払

3  原告は右契約に従い、本件建物の建築工事に着手したが、二度に亘る追加工事の発註があり、その第一回は金六四一万二九五〇円、第二回は金一五二万三九七〇円であり、本件建築工事請負契約の請負代金は総額金一億〇五九三万六九二〇円となった。

4  本件建築工事請負契約(追加工事を含む)による各工事は、昭和五九年四月一七日完成し、同日被告に引渡され、被告は同月一八日ホテルを開業した。

5  被告は請負代金につき、合計金八〇〇〇万円を支払ったのみで、残金二五九三万六九二〇円の支払をしない。

6  よって原告は被告に対し、次の金員の支払を求める。

イ 金二五九三万六九二〇円 請負代金残金

ロ 右金員に対する引渡終了後の昭和五九年四月一八日から支払済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  請求原因2は認める。

3  請求原因3のうち、二回の追加工事があったことは認めるが、その金額は争う。金額は、一回目が金二九七万七〇〇二円、二回目が金一五二万八九〇〇円である。

4  請求原因4は認める。

5  請求原因5は認める。

6  請求原因6は争う。

三  被告の相殺の抗弁

被告は原告に対し、次のとおり延滞償金債権及び工事の瑕疵による損害賠償請求権を有しているので、これと原告の本件債権とを対当額で相殺する旨の意思表示を本件訴訟の第一回口頭弁論期日においてなした。

1  延滞償金

本件工事は、原告主張のとおり昭和五九年四月一七日完成したが、請負契約上の工期を大幅に遅延した。

工期遅延の場合、一日の遅延につき工事金額の一〇〇〇分の一の割合による延滞償金を、原告が被告に支払う旨の合意がある。

本件工事の契約金額は追加工事費を含め合計金九四五〇万五九〇二円であり延滞償金は一日当り金九万四五〇五円である。本件工事は工期より四七日遅れて完成した。よって、被告は延滞償金請求債権金四四四万一七三五円と対当額で相殺する。

なお、原告は、工期延長の合意があったと主張するが、否認する。

2  工事の瑕疵による損害

本件建物の瑕疵は左記のとおりである。

一号室

イ 玄関より洋間入口下敷居浮上り

ロ 右木製建具の歪み

ハ 洋間テレビ台の壁との隙間

ニ 洗面所入口建具の歪み

ホ 洗面器台左右壁歪みによる隙間

ヘ 浴室排水外部階段へ水漏れ

ト 外非常階段踊場で約三五ミリメートル沈下

チ 二階擁壁側通路地盤沈下により排水管折損及び各所地盤陥没

リ 一階車庫入口より奥へ向って右一〇ミリメートル左一七ミリメートル倒れている。

二号室

イ 玄関より洋間入口ドア鍵壊れている。

ロ 洗面室入口ドア締り悪い。

ハ 洗面室入口ドア前の周囲が床を踏むと音が出る(二カ所)

ニ 洗面室床を踏むと音が出る。

ホ 浴室入口サッシドアの左下が当り、締りが悪い。

ヘ 一階車庫入口より奥へ向って右一三ミリメートル左七ミリメートル倒れている。

三号室

イ 玄関より部屋入口ドアの枠の戸シャクリ不足でドアに隙間

ロ 和室間境の建具動き悪い。

ハ 右の鴨居両端・中央とも歪み、取付部柱に歪みの為穴が見える。

ニ 床の間横テレビ台と床柱取付部分に約八ミリメートルの隙間あり。

ホ 和室ベッド横手摺下化粧土台に歪み。

ヘ ベッド廻り床畳上下動

ト 畳の合せ目に隙間あり。

チ ベッド横化粧建具動き悪い。

リ 浴室排水が外部階段上壁に漏れる。

ヌ 一階車庫入口より奥へ向って右二〇ミリメートル左一一ミリメートル倒れている。

五号室

イ 玄関より洋間入口ドアに歪み

ロ 洋間より脱衣入口ドアに歪み、隙間あり。

ハ 便所入口ドアに歪みあり。

ニ 浴室入口サッシドア鍵のにぎり玉動かず取り替え必要

ホ 外部ブロック塀に隙間

ヘ 一階車庫入口より奥へ向って右一七ミリメートル左五ミリメートル倒れている。

六号室

イ 玄関より洋間入口ドアに歪みあり。

ロ 洋間より脱衣入口ドアT双ビス部分、柱にヒビ割れのためT双が浮上って動いている。建具調整必要

ハ 各所敷居の釘頭隠す。

ニ 浴槽の壁面が沈下し、壁タイルとの間に隙間約一〇ミリメートルあり。

ホ 脱衣入口の周囲が歩くと音がする。

ヘ 洋間入口左側、木建具(窓)の動きが悪く調整必要

ト 各所止め箇所に隙間あり。

七号室

イ 間境のテレビ棚の柱、檜貼物がハゲている。

ロ 間境建具の動きが悪く調整必要

ハ ベッド上窓の鴨居にヒズミ、建具動かず。

ニ 脱衣入口建具に当りカ所があり、調整必要

ホ 便所入口建具に当りカ所があり、調整必要

ヘ 玄関より和室の入口の敷居が浮上っている。

ト 浴室より外部に水漏れ

八号室

イ 玄関より洋間入口ドア下敷居が動いている。

ロ 脱衣入口周辺、歩くと音が出る。

ハ 脱衣入口ドアに歪みあり。

ニ 廻り縁と天井との間に隙間あり。

一〇号室

イ 脱衣室入口の建具に歪みあり。

ロ 浴槽とタイルの間に隙間あり。

ハ 浴室入口ドア(サッシ)の左下が下り当る。

一一号室

イ 脱衣入口の建具が歪んでいる。

ロ 脱衣入口のランマ建具、柱側片方に隙間あり。

ハ 浴室入口ドア(サッシ)の右下が当り、調整必要

ニ 浴室の土間タイルと浴槽の間に隙間あり。

一二号室

イ 脱衣入口建具の右下が当り、調整必要

ロ ベッド側窓(木製)、建付が悪く引違時当る。

ハ 浴室入口ドア(サッシ)の右下が当る。

ニ 脱衣室の床を歩くと音が出る。

ホ 洋間入口上、クロスがハゲている。

ヘ 浴室より外部へ水漏れあり。

一三号室

イ 便所四方の隅のタイル目地ヒビ割れあり。

ロ 洋間応接セット廻り床を歩くと音が出る。

ハ 浴室より外部へ水漏れあり。

一五号室

イ 脱衣入口ドア取手不良、調整必要

ロ 浴室壁タイル横割れ。

ハ 便所入口ドア取手不良、調整必要

ニ 浴室より外部へ水漏れあり。

一六号室

イ 脱衣室入口ランマ建具柱側片方に約四ミリメートルの隙間あり。

ロ 浴室より外部へ水漏れあり。

外部廻り

国道側擁壁がG・Lから三、五〇〇ミリメートル位の所にて

イ 一〇ミリメートル

ロ 一八ミリメートル

ハ 二〇ミリメートル

ニ 二〇ミリメートル

内側に倒れている。

東側(入口の反対側)ブロック目地にヒビ割れ。

北側(道路側)擁壁に縦にヒビ割れ。

被告が本件工事の瑕疵により受けた損害額は、合計金七六四万二三〇〇円である。そのほかにも、前記一号室チ、リ、二号室ヘ、三号室ヌ、五号室ホ、ヘ及び外部廻りに関する瑕疵による損害もある。

四  相殺の抗弁に対する原告の認否

相殺の抗弁事実は否認する。

1  延滞償金について

延滞償金を支払うことを約束したことはない。

工期の延長については、昭和五八年一二月中旬ころ、原、被告各代表者の合意で昭和五九年三月末日まで延期されたものである。

2  工事の瑕疵による損害について

本件工事の瑕疵の原因は一部を除き、その大部分は不同沈下によるものであるが、原告は本件工事の埋戻しまたは盛土の際突き固めは十分になしているものであり、尚突き固めを十分にしたとしても、荷重を掛け一年位圧密を待って、しかる後基礎を設けない限り、本件工事の場合のように一・八メートルというような埋戻しや盛土の厚みが大きい場合には若干の不同沈下は免れないものである。

そして、それを避けるためには工期を十分に見なければならず、また擁壁の下端までも建物の基礎を下げなければならないもので、そうすると工事費が大幅に増大するのである。

原告会社代表者は被告に対し不同沈下を避けるために建物の基礎を擁壁の下端まで下げるか、パイルを打つことを進言したが、工事費が増大するので設計図のとおり施工するよう指示されたので、原告は設計図のとおり施工しているのである。

要するに、本件工事の場合、突き固めを十分にしていたとしても若干の不同沈下は免れないものであり、本件建物の不同沈下は原告の工事施工の不良によるものではない。更に、不同沈下による車庫の傾斜は最大で二〇ミリメートルに過ぎず、且つ、不同沈下はそれ以上は起らない(進行しない)ものであり、その傾斜は普通の人が見ただけでは判らないものであって、勿論使用に全く支障もないのである。

被告の本件建物の瑕疵の主張の殆んどは、どのように工事の施工をしても避けられないやむを得ない現象であって工事の不良によるものではないばかりか、その大部分は些細なことを殊更誇大に主張しているもので、勿論使用上の支障もないものである。

被告は、昭和五九年四月一七日に本件建物の引渡を受けて同月一八日にホテルを開業し、爾後本件建物で営業を続け莫大な利益をあげておきながら些細なことをあげて瑕疵があると称し請負残代金二五九三万六九二〇円もの支払をしないのは、明らかに嫌がらせ支払の引き延ばしであって、信義則に反するものである。

第三  証拠(省略)

理由

(省略)

(別紙)工事瑕疵目録省略

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